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紺碧の将

本物のことば

2009.06.08

 広告を創る仕事も本を作る仕事も面白いが、雑誌編集の醍醐味はなんと言っても何かを極めた「本物の人物」に会えること。『fooga』も『Japanist』も本物の人物を求める編集主旨なので、当然のことながらそういう方々への取材が多くなる。

 例えば『Japanist』第2号であれば、櫻井よしこ氏、日本画家の田渕俊夫氏、松山市長・中村時広氏、作家の曾野綾子氏と続く(曾野氏以外は私が原稿担当)。『fooga』第89号であれば、オーケーウェイヴ社長の兼元謙任氏。こうやって号を重ねる毎に素晴らしき人たちとの出会いが重なる。これって、いくらお金を積んでも得られないことだと改めてありがたみを感じる。

 今回は田渕俊夫氏の話。

 知る人ぞ知る日本画壇の重鎮。先頃、京都・智積院の襖絵60枚を完成させ、全国の何カ所かで展覧会が開催された。墨一色で日本の移ろう四季を描いているのに、会場内が絢爛な色彩に満ちている錯覚に襲われた。気がほとばしっているというか作品が異様なオーラを発しているというか、とにかく近年まれに見るハイテンションの展覧会であった。テレテレしていたら、作品に往復ビンタをされそうな気配だった。

 田渕氏への取材がまた凄かった。言葉の一つひとつに含蓄があり、広く遍く通用する人生観や自然観、そして哲学が通底している。

 曰く、

「ダニに至るまで、地球上に存在する生き物はすべて意味がある」

「人は雑草と言うが、丹念に見れば、その美しさに驚かされる」

「画家は対象物の一瞬を描くのではない。時間の流れまで包含した本質を描くのである」

「形は正確に、色は自由に」

「ぎりぎりまで色を抑える。それを超えて訴える何かを表現したい」……と本質的な言葉が続く。

 毎朝4時頃起床し、制作に没頭する。明けても暮れても絵のことばかり。サラリーマンは定年でひとつの区切りをつけるが、画家に区切りはない。おそらく田渕氏は生涯現役バリバリの画家でい続けるだろう。

 静かに、恬淡としているが、その実、重量級の言葉をとくと浴びせられた。

田渕俊夫特集「モノクロームの色香」(全20ページ)は『Japanist』第2号(7月25日発売予定)にて。

(090608 第102回 写真はアトリエで下図を描く田渕俊夫氏)

 

 

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