多樂スパイス
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自分が好きなことを見つけて無我夢中で取り組み、ひとつずつ目標をクリアする。そうやって愉しみながら、自分という人間をぶ厚くしていく……。今がベストで、未来には未知の楽しみがある。これが、多樂の本質である、と『多樂スパイラル』のまえがきで書いたが、その原理原則は今も変わっていない。

日々の生活のなかで、森羅万象に潜む多樂をいかに味わうか。心に映りゆくよしなごとを書き留めておこう。それが読者の方々にとって、なんらかのスパイスになればとの願いもこめて…。

 

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いろんな経営者がいるからオモシロイ

2017.11.05

 新聞、雑誌、テレビ……、最近なにかと永守重信氏に関する報道に接することが多い。日本電産のCEOである。それだけ激烈ということなのだろう。

 御歳73とは思えない。タフでパワフルで明快。物事をシンプルに考え、率先垂範する。自信に満ちあふれ、どの国でも堂々とふるまう。ある意味、日本人離れした経営者だ。

 日本電産はモーターを開発、製造する会社である。世界中で買収を続け、ついにグループの売上は一兆円を、社員は10万人を超えた。

 買収と言っても、マネーゲームのそれではない。自社の本業と相乗効果の出せる、弱った企業に目をつけ、安く買って再生させる。社員は解雇しない。買った企業は売らないと宣言する。その手腕はお見事のひとことに尽きる。

 赤字企業から黒字企業へ変える。永守氏に言わせれば、秘訣はシンプルらしい。ムダなコストを省き、売上を上げる工夫をする。それを徹底させるだけで会社は変貌する。

 コスト管理がスゴイ。ティッシュ一箱、ペン一本に至るまで、どこでいくらで買ったかを調べ、少しでも改善の余地があれば厳しく指示を出す。トイレの水の流し方にまで注文をつける。取引業者への要求が激しいのは言うに及ばずだ。

 永守氏自身が元旦以外休まないというハードワーカーだが、会社もそうだった。しかし、一兆円企業になったことを契機に、残業ゼロを目指している。より少ない労働時間で売上を増やすということは、労働生産性を高めるということ。これは並大抵のことではできない。しかし、彼は広言し、ひたすら実行に移す。

「創業以来6000人を採用してきたが、学歴と仕事の成果には相関関係はない。だから教育だ。教育で人はガラッと変わる」と言い、私財80億円をなげうって経営の学校を創設した。

 フォーブスの年収ランキングに載るほどの高収入だが、カネに執着はない。これと思えば、何億円も寄付する。税金として収めてもムダに使われると思っているのは私と同じである(使うレベルが違い過ぎるが)。

 買収した会社の社員との昼食懇談会、夕食懇談会のためにポケットマネーを何千万円も使う。食事をしながら、永守イズムを吹き込むのだ。自信に満ちあふれた経営者の言動を間近にし、皆、やる気が出るようだ。これは国内外を問わず、同じ現象である。

 永守賞という、モーター開発に尽力した人を表彰する制度があるが、あろうことか商売敵に所属する開発者に賞をあげてしまう。度量が大きい。

 

 いっぽう、私が心酔する経営者は、パタゴニアのイヴォン・シュイナードである。若い頃、あるムックに載っていた「パタゴニア100ヶ条」に啓発され、自分の30ヶ条を作ったという話は、これまでにも何度か書いた。

 なんとこの人、「遊ばざる者、働くべからず」という信念の持ち主である。日本では逆のことを言われているが、イヴォンは本気でそう思っている。そして、採用試験は一緒に山に登ったりサーフィンをするという。そういった遊びができるかどうかで仕事ができるかどうかもわかるというのだ。

 ほぼ定番商品だけで商売をする。つまり、小手先の変化でむりやり商品を買わせるようなことはしない。それどころか、なるべく長く使ってもらうことを前提に、修繕の仕組みを徹底させている。

 永守氏は取り引き業者に「まけろ、まけろ、とにかくまけろ」と迫るが、イヴォンはどういう原材料を使って、どういう作り方をしているかを厳しく問う。自然環境に負荷のかかる方法をとっている会社とは、どんなに安くても取り引きしないのだ。そのあたりの詳細は『レスポンシブル・カンパニー』という本に詳しい。

 さて、もし私がどっちの会社で働くかを選べと言われたら、どうするか? 間違っても永守氏の会社では働きたくない(笑)。素晴らしいとは思うが、私のような人間では一日とて務まらないだろう。

 そういえば、「パタゴニア100ヶ条」の第92条は「東洋的、日本的な文化や精神世界への関心がある」である。イヴォンは禅にも精通しているのだ。

(171105 第764回)

 

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