多樂スパイス

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紺碧の将

美しき屋根瓦

2017.10.27

 知多半島から帰って来る途中、「醸造伝承館」なるものがあるとわかり、そこへ急行した。

 聞けば、知多は日本三大銘醸地のひとつに数えられているという。

 醸造といえば、味噌や醤油などの発酵食品だ。それらを製造している合名会社中定商店という会社が、かつての工場を一般公開している。

 休日のせいか、だれもいなかった。しかし、門戸は開いている。伝承館の玄関も開いている。

「では、失礼」と勝手に入る。薄暗くて、展示されている(あるいは無造作に置かれている)道具の詳細はわかりにくい。しかし、雰囲気は伝わってくる。なるほど、こういう場所に発酵のための菌は生息し、健気に助けてくれているのだな、と。

 勾配のきつい、昔ながらの階段を昇り、明かり取りから外を覗いた時だった。目の前に「福田平八郎」がいたのだ。

 というものの、福田平八郎本人がいたわけではない。彼は明治の生まれ。とうにあの世へ行っている。

 福田平八郎の代表作のひとつ、『雨』そのままの風景が目の前にあったのである(写真上がその時に見た屋根瓦。下が福田平八郎の『雨』)。胸がドキンとした。

 

 福田平八郎は好きな画家である。山種美術館で『雨』や『漣』を見たことがあるが、自然の動きをとらえ、本質だけを抽出したシンプルな構成に目が釘付けになった。ずっと見ていたかった。そのまま、現代の先端のデザインに使えると思った。だって、『雨』なんか、屋根瓦を描いて、「雨」なのだという。よく見ると、雨がぽつぽつ降ってきたのだろう、水滴のシミがついている。

 やはり一流の芸術家はスゴイ。画家は絵や造作物で、文学者は言葉で、音楽家は音で、その他の芸術家もそれなりのツールを用い、この世のエッセンスをえぐり出している。

 このところ、ますます現代の世界文学や近現代のクラシックにのめり込んでいるのだが、それはおそらく歳を重ねたことによって、感性が磨かれてきたからだろう。

 それはそうと、私は『日の名残り』以来、カズオ・イシグロのファンだが、今回の快挙は素直に嬉しい。

 今日は何を飲み干そうかと、ワクワクする毎日である。

(171027 第762回)

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