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紺碧の将

階級意識が人類の財産を生む

2017.08.24

 前回に続き、妻籠宿の話題を。

 江戸時代、参勤交代における江戸と領地の往復を大人数で行う大名行列は、地方にいる大名が力を蓄えることのないようにと意図されて始まった。

 中山道にある妻籠宿にも、大名たちが宿泊した。それが「本陣」である。

 もうひとつ、本陣の斜め前に脇本陣、通称「奥谷」がある。万が一、本陣が火事になった時、使用するために造られたという。明治10年、昔日のままに建て替えられ、一般公開されている。総檜造りの威風堂々たる風格である。

 結局、本陣が火事になることは一度もなく、脇本陣の出番はなかった。つまり、万が一のために造った建物は、ただ「スペア」として存在していたのである。

 おもしろいのは、配下の武将を含め、なんびとたりとも脇本陣に泊まれなかったということ。殿様にとっては、「あんな身分の低いヤツらが泊まったところにワシが泊まれるか!」ということらしい。なんと強烈な階級意識であろう。なんと途方もないムダであろう。しかし、私はそういうムダがけっこう好きなのだ。階級意識は人間の愚かさが如実に表れている滑稽な面だが、それによって素晴らしい建築物が世に誕生する。

 クラシック音楽の発祥もそれに近い。けっして、〝庶民から湧き出た音楽〟ではない。しかし、だからこそ、美の極致とも言えるほどの高いレベルの音楽が誕生し、時代を超えて今に残っている。人類の財産は、案外そういった〝くだらない階級意識〟から発しているものが多い。

 脇本陣は本物の風格に満ちていた。囲炉裏から出た煙が檜の表面をコーティングしたのか、艶々と黒光りしている。天井の小窓から差しこむ数条の光はなかなか幻想的でさえある。天井の唐傘造り、板戸に描かれた女性の絵、趣のある庭など、見所たっぷりの歴史的建造物だ。

 妻籠宿に行って良かったと思っている。

(170824 第746回 写真上は脇本陣の室内、下は板戸に描かれた絵)

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