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紺碧の将

他の生き物になりきる

2017.08.16

 とても不思議な体験をした。というより、不思議な感懐を得た、と言い換えた方が正しい。

 木曽駒ヶ岳を下り、麓の駒ヶ根にあるホテルに戻って温泉に浸かり、体を休めながらのんびりビールを飲みながら窓外の風景を見ている時だった。

 外は粒子の細かい雨が降り続いていた。粒子が細かいから、風景の輪郭がぼやけている。

 いろいろな鳥が空を飛んでいるのが見える。よくある光景だ。体の大きさに比較して、とんでもない速度で縦横無尽に空を飛び巡っている。鋭角に進路を変えるのを見て、「いったい、どうすれば、あんなことができるのだろう」と考えていた。

 飽きもせず見続けていると、やがてそれまで見ていた風景が、そうではなくなった。なんと、自分がその風景の中を飛んでいる鳥になっていたのだ。自力で空を飛んだことなどないのに、あたかも自分がその鳥になって空を飛んでいるような錯覚を覚えた。

 しかも、ただ飛んでいるのではない。雨が降りしきる中、エサを求めていた。敵の来襲に備えて、警戒も怠らなかった。なにしろ、小さな体だ。少し大きな鳥に遭遇したら、ひとたまりもない。だからこその鋭角的な急旋回なのだった。

 その感懐を得ると、まぎれもなく自分がこの宇宙の一員にすぎないことを皮膚感覚で理解できた。そして、鳥だけではなく、さまざまな生き物になりきることができるのではないかと思えた。

「だからなに?」と言われても、返す言葉がない。

 ただ、それだけの話。

(170816 第744回 写真上はホテルの窓からの風景。下は千畳敷の風景)

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