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紺碧の将

透徹した目─不染鉄

2017.07.01

 「不染鉄? なんだこりゃ?」

 東京ステーションギャラリーからレセプションの案内が届いたとき、妙な3文字に惹かれた。「没後40年 幻の画家」とサブタイトルが銘打ってあるので、画家の名前なのだろう。どこで区切って読んでいいのか、はたまた3文字セットで雅号なのか、判断に苦しんだ。正解は、「不染」が姓で「鉄」が名前である。僧侶の出とある。なるほど。
 明治から昭和まで生き抜いた人だが、不思議な経歴だ。20代はじめ、早くも日本芸術院研究員となり、スケッチ旅行で訪れた伊豆大島が肌に合ったのか、そこに住みついて漁師同然の生活をおくる。3年後、京都の美術専門学校に入るや首席で卒業。その後も帝展で入選し続けるが、戦後は画壇を離れ、奈良でひっそりと制作を続けた。

 

 画風もまた独特だ。『山海図絵』という大作がある。手前には太平洋が広がっている。海底の岩や泳ぐ魚も見える。その向こうに地上が続き、真ん中にドーンと富士山が鎮座している。その頂は白みを帯び、圧倒的な存在感だ。その向こうにアルプスの山々が連なり、なんとその背景には黒黒とした日本海と漁村まで描かれている。とほうもない俯瞰図だ。
 『山』という作品もすさまじい。さまざまな樹木がひしめきあった山は全体で生き物のよう。『いちょう』(右写真)はいちょうの大木と根元の地蔵菩薩が絶妙なコントラストをなしている。大木に抱かれたお地蔵さん、なぜか樹木葬の果てを連想してしまった。自分が死んだら樹木葬がいいなと思い始めているからか。巨大な廃船が港に浮かぶ『廃船』も一度見たら忘れられない力強さをもっている。
 不染鉄。よほど透徹した目を備えていたのだろう。これまで美術館で開催された回顧展は、21年前の1回だけという。すごい人がいたものだ。
 東京駅舎のレンガを効果的に用いた展示会場もいい。
 8月27日まで開催。
(170701 第733回 写真上は不染鉄。いい顔である。下は『いちょう』)

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