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紺碧の将

ある芸術の愉しみ方

2008.11.23

 3人で飲む時にウマの合う組み合わせがある。

 私の場合は、以前、このブログで紹介した、日仏料理とも言える〈環坂〉の坂寄誠亮シェフと陶芸家・島田恭子女史(いずれも『fooga』特集で紹介)という組み合わせが、その好例だ。坂寄シェフがお気に入りのレストランに極上のワインやシャンパーニュのコレクションを持ち込み、3人でたらふく飲み、食べ、熱く語るということを年に何度かしている。

 坂寄シェフは宇都宮で独自のスタイルを築き上げた稀有な料理人(日本広しといえど、あのようなスタイルは他にないだろう)、島田女史は桜をテーマにした益子在住の人気陶芸家で、年に何回もの個展をずっとこなしている。先月は『婦人画報』に10歳若返る化粧法とかのモデルで出演。掲載された写真は、本職の女優まっ青というほど美人に写っていたし(もちろん、素がいいからにちがいないが)、かと思うと、しばしば講演会やシンポジウムのパネラーなどで辛口の意見をビシビシと述べている。

 さて、坂寄シェフが島田女史に飾り皿を発注したのはいつのことだろう。〈環坂〉はカウンターに8席だけ、というスタイルだが、料理が始まる前、テーブルの上に飾り皿を置きたい、ついてはその皿を創ってくれないか、と島田女史に注文したのであった(と思う)。

 それが仕上がったので一緒に8枚を選んでほしい、せっかくだから〈環坂〉で夕食をご馳走します、と嬉しいニュースがあったのは先月のことである。

 発注主は坂寄シェフ。それなのに、仕上がった16枚の中から最初の1枚を私に選ばせてくれて、それをプレゼントしてくれるという、島田女史からのとんでもないオプション付きであった。それを承諾した坂寄シェフって、いったい……。

 そして、食事の後、カウンターに並べ、どれを選ぼうかと吟味し始めた(それが右上の写真)。

 嬉しいのは当然のことだが、大きなプレッシャーがあったのもたしか。

 自分に課した条件は、ひとつ。発注主である坂寄シェフが最も気に入った皿を選ばずに自分の好みを選ぶということ。だからといって、「どれがシェフの好みですか?」と訊いては無粋である。チラリチラリとシェフの目を盗み見し、どれに魅せられたかを察知しようとするのだが、意外にわからないものだ。

 数分の後、一枚だけ特定できたので、それをはずして私の一枚を選んだ。それは紅葉をあしらったシンプルな陶板。私がすでに持っている桜の陶板(当ブログ・今年の4月13日付参照)と対比させる意味でも、調和のとれた選択であったと思う。

 さて、坂寄シェフはその後、あっという間に8枚を選んだ。直後、「私が選んだ8枚とピッタリ同じ!」と女史をして言わしめ、「やっぱり俺の目はたしかなのだ」とご満悦のシェフ。ムフフと大人の笑いが漏れたのだった。こういうイベントって、それぞれに長けていないとできないこと。まさしく芸術の愉しみ方のひとつであった。

 ところで、当日、12月号の『fooga』で特集する原伸介さんの炭を持参したのだが、さっそくそれを使って肉を焼いてくれた。なにごとにも自分なりのこだわりをもつシェフなので、どういう反応なのか、ちょっと心配だったが、コメントを聞いて安堵した。

「本当にやさしい炭ですね」

 自分が誉められたような気になった。不思議なもんである。

(081123 第77回)

 

 

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