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自分が好きなことを見つけて無我夢中で取り組み、ひとつずつ目標をクリアする。そうやって愉しみながら、自分という人間をぶ厚くしていく……。今がベストで、未来には未知の楽しみがある。これが、多樂の本質である、と『多樂スパイラル』のまえがきで書いたが、その原理原則は今も変わっていない。

日々の生活のなかで、森羅万象に潜む多樂をいかに味わうか。心に映りゆくよしなごとを書き留めておこう。それが読者の方々にとって、なんらかのスパイスになればとの願いもこめて…。

 

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伸介の窯はこの世のタイムポケット

2008.10.25

 再び原伸介氏の話題。

 ついに見てしまった、伸介の窯を。右の写真がそれである。

 松本市郊外の山の中にある。人里からかなり遠く離れたところにあると思ったが、さほどの距離ではなかったのが意外だった。しかし、それまで道一本なかったところにツルハシとスコップで道を造り、かなり難しいとされている窯も自分で造ったというのだから特異な例であることに変わりはない。私も子どもの頃から変わり者と言われてきたが、伸介の「変わり者度」は私のはるか先をいっている。まさに現代の仙人ならぬ、現代の変人かもしれない。正直、どんなに大金を積まれても私にはできそうにない。まあ、本人でさえ「今同じことをやれと言われてもやれませんけどね」と言っているのだから、相当シンドイ作業にちがいない。

 さて、炭焼きとひとことで言うが、どんなことをするのか。

 まず、窯から数百メートル離れた山の急斜面に生えているナラなどの落葉樹を伐採し、木を適当な長さに切り、山から降ろして窯のところまで運ぶ(原伸介の場合)。これだけで相当苛酷な労働であることは想像できるだろう。次に木を窯の中に水平に一本ずつ入れ、エブリと呼ばれる、長い鉄棒の先がカギになっている道具を窯の中に入れて立ち上げていく。窯の入口は狭いので、この作業もかなり難儀だ。数時間も要するという。

 窯の中に木をぎっしり立てたところで、窯の口元で火を焚く。これがいわゆる「口焚き」というもので、こうやって酸素を抑えながら窯の中の温度を上げる。すると、原木は熱分解を始め、炭化を始める。数時間後、煙の色の変化を合図に精煉に入る。時間をかけてゆっくりと窯の中に空気を送り込むと、炭は青いガスを出しながら黄金色に輝くようになる。やがて炭が出来上がる。

 と、こう書くと、あっという間に終わってしまうが、体力と気力と繊細な感性が必要な「伝統技術」であり「芸術」でもある。マニュアルでできるような世界ではない。

 詳しいことは『fooga』12月号を読んでいただきたいが、この窯を舞台に、伸介は10年以上にわたって一人だけで炭を焼いてきた。当初の数年間は、いかにも赤貧洗うがごとしという表現がピッタリの状態だったらしい。それでも、中学生の頃に抱いた「山に恩返しをしたい」という夢を持ち続け、伊沢師匠に出会って「オレもあんな風にカッコイイ男になりたい」という願望を忘れることなくひたすら炭焼きであろうとした。

 その間に培った信念や価値観が彼の著書に書かれているが、まさしく「真理」「哲学」と言えるものばかりである。時々、大学の教授なんかの無味乾燥な話を聞かされることがあるが、伸介の話は実学だから面白い。もちろん、大学の先生にも時々地に足のついた人もいるにはいるが。

 撮影の日の夜、伸介に案内されて、松本でいちばん旨いという「ジラソーレ」というイタリアンに行った。伸介の焼いた白炭を使っている。同じように伸介の炭を使っている松本の「ドマノマ」もそうだが、料理人の心意気と伸介の炭が見事に結実したとしか言えない料理が出てくる。

 着物姿の原伸介と大いに食べ、飲み、気炎を上げたのである(その気炎も伸介の炭による)。

(081025 第73回)

 

 

 

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