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紺碧の将

サムライ炭焼き師

2008.10.12

 こんな若者がいたのか! と嬉しくなってしまった。若者と言っては語弊があるかもしれない。今年36歳、若者と呼ぶに少し的はずれのような気もするが、「これだけのことをやっていて」36歳というのは、明らかに「若者」の部類に入れておかしくはない。

 原伸介。信州は松本に住み、炭焼きをなりわいとしている。彼の存在を知ったのは、以前このブログで紹介した、出版業を営む木下豊さん(小布施在住)から彼の著書を送っていただいたことに端を発する。

 一読して、「こういう人こそ『fooga』にふさわしい」と唸ってしまった。中田宏以来の電流だったかもしれない。横浜生まれ、横須賀育ちの若者がなぜ職人に惹かれ、山にこもり、一人もくもくと炭を焼き続けたのか、そして、どのようにして自分の夢を成就させようとしたのか、また、今はどういう状況なのか、興味が芋蔓式に湧いてきた。たぶん、日本広しと言えど、単独で炭焼きをなりわいとしているのは、原伸介だけではあるまいか。

 そして、とうとう取材をした。松本市に彼の住まいはあった。

 

 なんと凛とした男だろう、第一印象はそれだった。蒸し暑い日の昼下がり、突如吹いてきた爽やかな一陣の風にも似ていると言ったらオーバーだろうか。彼も私も「人見知りが激しい」タイプだが、会うなり話が止まらず、延々何時間も喋りっぱなしだった。

 原伸介はまずお茶を点て、「お座敷遊びをしないで若いおねえちゃんと遊ぶようになってから日本の男はダメになった」という持論をとうとうと話した(ちゃんと聞いてますか、高久和男さん)。「チラシを見てモノを買うようになってからダメになった」という意見と共通する。

 さてさて、彼の魅力は『fooga』12月号を読んでいただくとして、希望を感じたのは、彼のような生き方が評価されるような世の中になってきたということだ。言うまでもなく、現在の日本を覆う閉塞感は、サラリーマン至上主義に端を発する。いい大学を出て、いい会社に入れば定年まで幸せになれる、と信じ込まされて大きくなったが、いざ周りを見渡すと、どうも幸せそうじゃないな、と。むしろ、どいつもこいつもくたびれた表情で、あんな風にはなりたくないよな、という考えを持った人が増えているのだと思う。その代わりに、これといって目指すものがない、というか、わからない。これが閉塞感につながっている。

 そういう時代にあって、彼は「多様な生き方の選択肢」をみごとに体現している。まさに生きたままの見本だ。「そうか、こういう生き方もアリだったんだ」と彼に会った人は思うにちがいない。

 取材の後、原伸介からハガキが届いた。いつものように筆で書かれている。

「滅法愉快な時間をありがとうございました。部屋と体の中にまだ熱氣が残っています」

 ちなみに、彼はいつも「氣」と書く。たしかに米の方が氣が充溢しそうだ。

 これから私はしばし原伸介の世界に浸り、原稿を紡ぎだそうと思う。

(081012 第71回 写真は自宅での原伸介くん)

 

 

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