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紺碧の将

都市の光

2016.04.16

プリント 日本家屋の室内を撮影し、そのなかの襖に別の場所で撮った風景写真を合成し、あたかも現代の襖絵のごとくに表現する作品を発表した写真家の若杉憲司さんを取材した。彼は若い時分より世界の辺境を旅し、素晴らしい風景写真をたくさん撮っている。かと思えば、マドンナ、リチャード・ブランソン、松本零士、浅田次郎、北方謙三、木村佳乃など、さまざまなジャンルの人たちのポートレートも撮っている。

 若杉さんが言った。
「本来、日本家屋は障子越しなどで自然光を採り入れ、畳に反射させて室内を浮き上がらせる柔らかい光に満ちていた。それが谷崎潤一郎の言う陰影礼賛でもあります」と。たしかに若杉さんの作品に写る光の陰影はゾクゾクするほど妖艶で、繊細だ。
市ヶ谷駅 今、日本の住宅にそういった柔らかい光はなくなってしまった。わが家にもそういう光はない。和室のある家屋であっても、照明が燦々と輝いている。
 特に都会において、その傾向は顕著だ。

 

 ただ、都市ならではの光の妙もある。東京駅のステーションビルと背後にそびえ立つ高層ビルの対比、皇居のお濠に映る近隣の建物の光、伊勢丹新宿本店の外観など、都市にはいろいろな顔がある。
 一方、市井の人々の日常の営みが現れている光もいい。ビルの窓、駅の構内、街灯……。
 馴染みの景色は、やがて心象風景になる。そう考えれば、日々、どういう光を見ているかで心の状態が変わっていくのだと思う。
 今後、照明デザイナーの役割はますます大きくなるにちがいない。
(160416 第630回 写真上は銀座和光、下はJR市ヶ谷駅。外堀に映る駅の構内の光がお気に入りだ) 

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