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紺碧の将

本のある空間という価値

2015.11.06

ライブラリーホテル1 子供の頃からかなりの本好きだったためか、本がたくさん並んでいる空間にいると、それだけで幸せな気分になれる。読まなくても、そこにあるだけでいいのだ。

 私にとって「いいホテル=ライブラリーがしっかりしている」という公式は不動のもので、那須の二期倶楽部や西新宿のパークハイアットなど、まずライブラリーの風景が頭に浮かんでしまう。アジアンリゾートの名ホテルには、必ずといっていいほど、素晴らしいライブラリーがある。そういう空間で、思い思いに本を取り出し、ページを繰る快楽はずっと記憶の襞に残っている。
 仙台にライブラリーホテルという、そのまんま〝ドンピシャ〟の名前をつけたホテルチェーンがある。仙台の地元資本なのだろう。仙台市内に3カ所くらいあるようだ。ほかにはこれといって個性のないビジネスホテルだが、名前につられてしまうのは私の嗜好を考えるとやむをえないところか。
 正直、名前のわりには……という蔵書の内容だが、なにもないよりはマシ。まして、本に意識を向けているだけで座布団一枚あげたくなってしまう。
 今後、差別化のひとつの手法として、「ライブラリーの充実」が注目されるようになってくると思う。選書は簡単ではないし、なにより、どんな本が並んでいるかでその空間のカラーが決まってしまうから、客を選ぶ際に有効だと思うのだ。
 
ライブラリーホテル2 ところで、最近なるべくアマゾンを使わないようにしている。たしかに便利だし、特に中古本に関しては涙が出るほどありがたい。しかし、新刊はなるべくリアル書店で買っている。
 なにより、本がたくさん並んでいる空間で実際に本を手に取り、吟味するという楽しみはネットにはないものだ。本を雑貨扱いしている人はともかく、そうでない人にとってはそれだけで知的な体験となろう。
 また、弊社も出版事業の端くれだが、足下を見られているから仕方がないとはいえ、アマゾンに納入しても実益に結びつかない。卸の掛け率は哀しいくらいに低いし、必要な分だけその都度出版社負担で送るというのもどうかと思う。最近出版された村上春樹の『職業としての小説家』は10万部印刷し、そのうち9万部を紀伊國屋書店が直接仕入れたというが、これは対アマゾン戦略の一環でもあろう。書店は直接仕入れることで通常より利幅が増えるし、出版社は買い取りしてもらえることで数字の見通しがたつ。もっとも、この手法は、かなりの確率で本を捌けるというケース以外、適用されないとは思うが……。
 結局、どんなにインターネットが発達しても、紙の本はなくならないだろうし、むしろ、今後「知的ツール」としてさまざまな空間で価値を増すことになると私は思っている。
(151106 第592回 写真はライブラリーホテルの蔵書コーナー)

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