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紺碧の将

未来につなげる、大きな区切り

2015.04.05

社屋外観 25年以上使った社屋を売却することになった。

 1987年4月に創業した直後、7坪ほどの事務所を借りた。その年の末にはスタッフが3人になり、手狭になったため、もう少し広い事務所に移転することにした。手続きをしている途中、クライアントのなにげないひとことが心にひっかかった。
「どうせなら、自社の社屋を建てちゃえばいいじゃないですか」
 おそらく、その人は冗談半分で言ったのだと思う。なにしろ、創業1年半くらいで、当時の私は29歳になったばかりだ。自社の社屋を持つには経験も浅すぎるし、資金もない。
 しかし、私はがぜん本気になった。土地を物色し、希望のエリアに80坪の土地を購入し、社屋を建てることにした。3つの銀行に融資の交渉をしたが、ひとつは返事さえもらえなかった。もう1行は頭金を2割用意してほしいと言ってきた。
 時代はバブルの勃興期。みるみる地価は上がり続けている。借り入れ金額は8,000万円ほどだったので、1,600万円を工面することは事実上、不可能。残り1行に賭けるしかなかったが、幸運なことに全額融資してくれることになった。ちなみに、そのときに作成した5年間の経営計画書はまったく根拠のない作り話だったが、幸いなことにその作り話を上回る業績を上げることができた。
社屋-2階カウンター 当時、スタッフは私を含め、全部で4人。2階建で総床面積60坪はじつに広く感じた。ワーキングスペースは1階だけにし、2階にはグランドピアノとバーカウンター、アスレチックジム機器とシャワールームと、事務所としては常軌を逸した空間にした。銀行から「これは必要ないのでは?」と指摘されたが、私は即座に「必要です」と答えた。
 社屋が完成したのは、1990年1月。私は30歳になっていた。大きめのフランス車を購入し、すぐ後には資本金2,000万円で子会社も設立した。つごう、1億円近くの借金を背負うことになってしまった。
 拠点を構えたことで、心が安定してきた。社員が十数名に増えても、スペースを気にする必要もなかった。
 しかし、バブル潰しのため金利が高騰し、契約当初6.2%だった金利があれよあれよという間に9%を超えた。当時は長期プライムレートと連動していたのだ。金利が変動するたび、銀行から返済表が送られてきた。それを見るたび、驚いた。なにしろ、信じられないほどのペースで利息が増えていったのだ。それでも一度も滞納することなく返済することができたのは、僥倖という以外ない。クライアントにも社員にも恵まれた。
 2004年4月、すべてを完済した。14年の歳月を要した。
 思えば、この社屋でさまざまな創意工夫をし、自分なりに道なき道を切り拓いてきた感がある。がむしゃらにやってきたことが、今に生きているとも思う。『Japanist』の編集を一人でこなせるのは、当時培ったものがあったからこそだ。正直、あのボリュームの雑誌を一人だけで編集・制作するほどの気力・体力を備えている人は、全国広しといえど、他にいないと自負している(しかも無給で)。
看板 創業当時、広告業界は時代の花形だったが、今では典型的な不況産業だ。それでも28年間、事業を継続できているのは、周りの人に恵まれたことと、支払いに関してしつこいほどのこだわりをもち続けてきたからだと思う。
 創業後間もなく、たとえ、うっかりであっても、業者への滞納や社員への給与遅配などを皆無にしようと決心したのだ。また、銀行口座の残高不足で決済ができないという事態もゼロにしようと思った。そうせざるをえない時は、事業を止める時だと思うようにした。
 なぜなら、創業当時の私は信用がゼロに近かった。にもかかわらず、1億円近くもの資金を供給してくれた銀行があった。それは「信用」にほかならないと思った。そして、その信用というものは、たった一度の不誠実によって壊れてしまうような脆弱なものだということもわかっていたつもりだ。幸いなことに、一度も滞納、給与遅配をすることなく、今に至っている。そのおかげか、私はあるていど信用される人間になったようだ。
 さて、弊社の社屋を購入してくれたのは、まだ29歳の男性である。整骨、整体、マッサージなどを営むという。
 いま、借り入れを背負い、さまざまな不安も去来していると思うが、ぜひとも地に足をつけ、頑張っていただきたいと思う。
 弊社、株式会社コンパス・ポイントとジャパニスト株式会社は、来月早々、使っていない宇都宮の自宅に拠点を移し、新たなステージに移る。
(150405 第551回 写真上は社屋外観、中はバーカウンターコーナー、下はエントランス付近のサイン)

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