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自分が好きなことを見つけて無我夢中で取り組み、ひとつずつ目標をクリアする。そうやって愉しみながら、自分という人間をぶ厚くしていく……。今がベストで、未来には未知の楽しみがある。これが、多樂の本質である、と『多樂スパイラル』のまえがきで書いたが、その原理原則は今も変わっていない。

日々の生活のなかで、森羅万象に潜む多樂をいかに味わうか。心に映りゆくよしなごとを書き留めておこう。それが読者の方々にとって、なんらかのスパイスになればとの願いもこめて…。

 

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『SHOKUNIN』、作り手側の解説

2014.04.30

プリント 昨年の夏くらいから進めてきた本『SHOKUNIN 職人・菅野敬一の生き方』が完成した。内容については、この欄や『Japanist』でも紹介しているので詳細は割愛するとして、ここでは別のアングルからこの本について書いてみたい。

 タイトルをあえて英文表記したように、いずれ英訳できるような体裁にしようと考えた。また、エアロコンセプトというきわめて緻密で美しい製品に関する本なのだから、アーティスティックな本にしたいと思った。だから、この本は文章もさることながら、アートディレクションにかなりの時間と労力を割くことになった。

 どんな本の内容にするか、漠然と考えているうち、「文章と写真が織り混ざったものにしたい」という結論に達した。例えば、前半が文章、後半がカラー写真という構成では、平板でおもしろくない。

 そこで、本文は基本的にオモテ面モノクロ+ウラ面カラーの16ページ構成の台とし、台がかわるときにオモテとウラを反対にしてつなぐ。つまり、次の台はオモテ面カラー+ウラ面モノクロの16ページ構成にする。それをいくつもつなぐというスタイル。ただし、この組み合わせを単純につなぐことはできない。ページの性質によって、「ここは必ずカラーに」「ここは必ずモノクロに」という条件があるからだ。

 そこで、8ページ構成の台と4ページ構成の台、さらに両面モノクロの台などを複雑に組み合わせることによって、全体の流れに合ったページ構成を割り出した。

 この作業を正確に行うため、ページ構成にのっとったサムネイル(視認性を高めるために縮小させた見本)を何度もつくりなおし、完全なものをつくりあげた。この本に「なりゆき」はないのである。しかし、そのおかげで、全体の流れに変化が生まれ、文章と森日出夫さんの写真の相乗効果をあげることに成功したと私は思っている。

 

shokunin_04 もうひとつ、写真のディレクションにも力を入れたつもりだが、こちらは名手・森日出夫氏に大いに助けられた。なにしろ、森さんは、こちらの望み通り、いや、それを超えた仕事をしてくれる。

 例えば、表紙の写真。私のリクエストは、「菅野さんの顔を真っ正面から」。なんとなれば、「男は40過ぎたら顔が名刺。60過ぎたら顔が戸籍謄本」と思っているからで、菅野さんの生き様を表すに、顔のアップ以外、考えられない。

 さらに私は「向かって右側に光を入れ、左側はシャドーにしてください。ただし、目だけ光を入れてほしい」とリクエストを出した。

 森さんは、アシスタントを巧みに使いながら光源の強さ・位置などを工夫し、見事、望みの写真を撮ってくれた。しかも、その後がニクイ。「高久さん、この場合、本のタイトルは菅野さんの髪の毛の部分でしょう。髪の毛が光らないようにしましたから」と言う。まさに、ドンピシャなんである。

shokunin_05 製品の写真も素晴らしい。今回はなるべく新品を使わず、いろいろな方から借りて、使い込んだものを撮影した。しかも、工場を舞台にして。その方がエアロコンセプトらしくなるからだ。

 森さんは、一発撮りで済まさない。それでは、いろいろな矛盾が生じ、立体的なリアリティーがなくなるからだ。

 そのため、光源を変えた多重露光という方法を採る。一発撮りに比べ、時間と労力は数倍かかるが、仕上がりはより本物に近づくのである。

 さてさて、この本に関することを説明していくと、膨大な文章量になってしまうので、この辺でやめておこう。要するに、菅野敬一という男は「現代のおとぎ話」を具現したと思う。だって、どん底まで落ちた男が、自分の心に忠実に物づくりをした結果、世界の目利きを魅了する製品をつくってしまったのだ。当然ながら、その背景にはさまざまな哲学や思想が凝縮されている。それはビジネスのハウツーもの数百冊に相当するはずだ。いや、比較不可能といってもいいだろう。

 ちなみに、この本の出版元はジャパニスト出版(旧・神楽サロン出版)。名前から、私が経営していると思われているフシもあるが、盟友・奥山秀朗氏の会社である。この本は、奥山氏の厚意なくして誕生の日の目を見ることはできなかった。あらためてここに謝意を表したい。

(140430 第503回)

 

 

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