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紺碧の将

苦しみと引き換えに得たものは

2013.08.13

ゼーゼー 夏恒例の登山に行った。今回は北アルプスの蝶ヶ岳山頂で一泊し、翌日、常念岳へ縦走し、前常念岳を経て下山するというコースを予定したが、結果から先に書くと、常念岳登頂は叶わなかった。

 事の発端は、出発する前日、都内から宇都宮へ移動したことだった。宇都宮でカズオ氏と合流し、車ででかけるのでそうするのだが、電車の中が異常に寒く、そのため風邪気味になってしまった。

 とにかく寒い。その日は朝から猛暑と予想されていたのでJRも気合いが入っていたのかもしれない。くわえて、時間帯の関係か、私が座った湘南新宿ラインのグリーン車は乗客がまばら。車内はキンキンに冷えていた。

 数十分もすると、体は冷え、たまらず乗務員に温度を下げてほしいと懇願するものの、なかなか温度は上がらず、結局、宇都宮に着いたときは体が芯から冷え切り、ブルブルと震えるような始末。すぐさま吉野家に入り、熱々の味噌汁を飲んだが、それでも冷え切った体はすぐには回復しなかった。

 翌朝、起きたとき、ヘンだなと思った。節々が痛いのだ。

 カズオさんと合流し、出発するやいなや、こんどは寒気がしてきた。外は猛暑なのに寒い。しかたなく長袖のシャツを羽織り、途中、スタミナドリンクを飲み(不本意なのだが)、ひたすら汗をかきながら運転を続けた。

 その日の宿は安曇野のリゾートホテル。階段を少し昇っただけで息がゼーゼーする。でも、一晩眠れば治るものと高をくくっていた。

 そして、翌朝、すっかり治ったと思った。だが、それは気のせいだった。

 三股登山口から登り始めるや、すぐ息があがってしまった。まだ、数百メートルしか登っていないのに。

 それから蝶ヶ岳までの約5時間は、まさに地獄だった。少し歩いてはゼーゼーしている息を整える。立っているのもままならず、手を膝に置いて体力の回復を待つ。汗は滝のように流れた。

 蝶ヶ岳は標高2667メートル。大したことのない山だと思っていたが、甘かった。特に、弱った体にはきつかった。行けども行けども登りの連続。途中、平坦な道がごくわずかしかない。〝一行三昧〟と心に念じ、この苦しさも一期一会、どんな状況でも楽しむのがモットーではなかったのか? と自問自答しながら歩みを進めた。

穂高連峰 沢沿いの道をひたすら登り、ハイマツの樹木帯を抜けると、ある瞬間、視界が開け、青空のなかに槍ヶ岳の頂上部が姿を現した。まるで下から空を切り裂くように。続いて、穂高連峰がゆっくり全貌を現す。

 そのときの感動をどう表現すればいいのだろう。まさに、その絶景を見るために登ったのだった。

 今回の登山は想定外の苦しさを味わったが、登っている途中、JRに虐められてすっかり弱ってしまった私の体を、ずっと清涼な風が癒してくれていた。おそらく、あの風がなかったら、途中で茹で上がり、倒れてしまったかもしれない。

 それにしてもJRよ、車内を冷蔵庫みたいにしていったい何が嬉しいのか。

 (130813 第445回 写真は、苦しみに悶絶する筆者(上)と蝶ヶ岳から見た穂高連峰(下)。左から前穂高、奥穂高、北穂高、涸沢、そして槍ヶ岳)

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