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紺碧の将

人間、このおもしろき生き物

2013.08.04

高梁 今、田中束氏の伝記を書いている。「伝記」とは言っても、田中氏は今も健在。『Japanist』第18号で紹介したが、86歳で現役バリバリだ。

 戦前生まれの田中氏は典型的な軍国少年だった。大学入学の春に学徒勤労動員され、そのまま終戦。戦後の極貧時代を経て、高度経済成長からバブルを経て、現在に至るまで第一線で活躍している。世界初の無公害接着剤を開発し、その後、その接着剤を使った高梁(コーリャン)ボードを開発した。

 「この30年、寝ても覚めても高梁のことが頭から離れない」と語る。詳細は省くが、要するに高梁の可能性に魅せられたのだ。ある意味、取り憑かれているといってもいい。そのきっかけとなったのは、司馬遼太郎の対談集に出てきた「高梁の茎は竹のように硬い」という言葉。その言葉にひらめき、ただ廃棄されるだけの高梁の茎を有効活用できるのではないかと思ったことが事の発端だそうだ。

 

 人間というのはおもしろい生き物だ。生涯、雪の結晶だけを研究する人もいれば、アブラムシだけを研究する人もいる。リンゴだけをつくっている人もいれば、数字のやりとりだけをしているデイトレーダーもいる。走りが専門の人もいれば、泳ぎが専門の人もいる。分刻みで動いている人もいれば、路上でネコのように生きている人もいる。

 で、田中氏は高梁のことばかり考えている。

 

 高梁とはどんな植物なのか、その実態がわからないといけないと思い、長野県塩尻市の畜産試験場を訪れた。休日にもかかわらず、飼料環境部の後藤氏は丁重に応対してくれた。高梁の試験栽培をしている畑にも連れて行ってくれた。

 高梁は、コーリャンとも高キビともソルガムとも呼ばれる。一年草の穀物のひとつだが、厳密にいえば、種を撒いて4ヶ月で生育する。すごい生命力なのだ。中国北東部が主な産地というくらいだから、肥沃な土地でなくてもオッケー。背丈が2メートル以上もあるので、日露戦争時、日本陸軍は高梁の畑に隠れて進軍したこともあったらしい。

 

 それにしても、戦前生まれの日本人のなんというたくましさよ! 田中氏に会うたび、感嘆させられる。とにかく、「たくましい」の一言に尽きる。

 そういう人がいる一方、こんなに豊かな社会なのに自ら命を絶つ人が毎年3万人を下らない。豊かさを得ることによって、生きることを拒否する人が多数現れるということの矛盾を思わないわけにはいかない。

(130804 第443回 写真は、長野県塩尻市の高梁畑)

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