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紺碧の将

世界に勝てる日本農業

2012.07.26

 新聞を読んでいたら、ある新刊の広告がなにげなく目に飛び込んできた。中央に大きな縦書きで「田中八策」とあり、タイトルの左下にその人とおぼしき人が写っている。

 「タナカハッサクかあ。こんなに大きく名前が書いてあるのだから、かなり有名な人なんだろうなあ。思えば、テレビもほとんど見ないし、新聞はななめ読み。とんと世事に疎くなったなあ」と思っていると、小さくふりがながふってあるのがわかった。

 「でんちゅうはっさく」とある。そうか、龍馬の船中八策にひっかけて田中八策なのだな。

 “日本の農業は世界で絶対に勝てる!”という勇ましいコピーも目に入った。

 その後、さっそく購入し、読み終えた。

 この爽快感はなんだろう。日本の農業といえば、ネガティブな情報ばかり。TPPに参加してもしなくても自由貿易の流れは変えようがないのに、相変わらずマイナス思考でオロオロするばかり。幕末の黒船のときと同じように。

 ところが、30年以上も農協と闘い、日本の農業技術で世界にうってで、数々の実績を残している岡本重明氏の「八策」は、じつに小気味いい。自身の体験をもとに、日本の農業が世界で勝てるという根拠を明確に示している。と同時に、農協─政治家─農水省という農政トライアングルがいかに日本の農業をダメにしてきたか、克明に書いている。

 岡本氏のビジョンは、タイ産コシヒカリという「そこそこ品質のいい日本米」を世界に輸出する→世界にある、まがいものの日本料理店の質を上げる→日本料理ファンを増やし、最終的には日本産コシヒカリを輸出するなど、行き当たりばったりの農政とは正反対にある。イギリスの紅茶戦略もそうだった。輸出を伸ばすには、その商品を使う生活文化を根付かせることが効果的である。だって、それを消費する文化がなかったら、どんなに丹精込めていいものをつくっても買ってもらえない。

 他に福島産の米はバイオエタノールに転換する(私は6年前から山家公雄氏の「米によるバイオエタノール生産提言」に注目している)、原料生産型から付加価値の高い農業ビジネスへ、規制緩和、沖縄の活用など多岐にわたり、しかも現実的でありながらすべてが斬新だ。

 「自分はダメな人間だ。なにをやっても勝てないし、そろそろ歳も歳だし、ずっと誰かに守ってもらえばいいや」という人と、「今までマイナスだと思われていたけど、見方を変えれば長所じゃないか。よーし、これを逆手にとって世界に広めてやるぞ」という人では、結果に天と地ほどの差がでるのは当たり前。日本の農業は農協主導のもと、ずっと前者の思考でやってきた。

 思えば、農業問題に限らず、財政再建、TPPを含む自由貿易促進、社会保障制度の維持、増大する医療費の抑制、自殺者・うつ病患者の急増、いじめ問題、公教育の内容見直し、外交・安全保障、公務員制度など各種既得権益の改革など、あらゆる政策テーマは、悪化することはあっても一向に改善されていない。

 その根本的な原因は、じつは政治家だけにあるのではないと私は思っている。依存心に凝り固まり、自助努力・創意工夫を拒否する多くの国民の精神性にあると思っている。

 「じゃあ、おまえはどうなのだ?」と訊かれたとしたら、「だからこそ、そうならないよう努めている」と答えたい。

 競争したら安い外国製品に日本が負ける、前例がない、アメリカの陰謀だ等々、マイナス思考ばかりでは、ますます閉塞するだろう。飛び抜けてポジティブな岡本さんの発想が全国に伝播することを願っている。

(120726 第356回 写真は、『田中八策』)

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