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紺碧の将

バルザック的外交思考

2012.07.22

 今、バルザックの『娼婦の栄光と悲惨』を読んでいる。相変わらず長い。細かい文字組で870ページ。悪辣な人間が「これでもか」と悪行の限りを尽くす。まさに、バルザック節炸裂である。

 美しい元娼婦エステルに一目惚れしたユダヤ人の強欲な銀行家ニュシンゲンから大金を巻き上げようと、さまざまな人間が集まってくる。男も女も、さらにはエステルの恋人まで。つまり、「恋に目がくらむ」という事態は、肉食獣の前で腹部をさらすようなもの。周りにいる強欲な人間にとって、金満家から金をまきあげるにこれほど絶好のチャンスはない。

 近隣外交も同じような関係でなりたっている。利害が敵対する近隣諸国との外交において、相手にダメージに与え、自国の利益とするには、相手国の弱みにつけこむこと。安保共闘も靖国参拝も、そのような図式で外国につけいるスキを与えてしまった。その結果、損なわれた国益は甚大である。

 長い歴史において、「食うか食われるか」の連続だったヨーロッパでは、そういった状況に対応するべく思考法が確立されていた。その代表的なものが、マキャヴェリの『君主論』である。カルロス・ゴーンの日産再建策は、ほぼマキャヴェリズムにのっとっているが、ビジネスがグローバル化した現在、そういう思考法を知らないでは済まされないだろう。私は『論語』『老子』『マキャヴェリズム』を少しずつ学んでいるが、なるほど人間というのは多面的・立体的なのだとあらためて痛感するばかりである。

 ところで、『娼婦の栄光と悲惨』のなかに、ラ・コンシェルジュリーの描写がたくさん出ており、数年前に訪れたことを思い出した。シテ島にあるその建物は、かつて最高裁判所として使われていた。フランス革命時には牢獄として使用され、4000人以上の囚人が収容されていたというから驚きである。かのマリー・アントワネットも幽閉されており、今でもその場所を見ることができる。

 当時、コンコルド広場でのギロチンによる処刑で、広場が一面血の海になったと言われているが、フランスのみならず、ヨーロッパの歴史は相当に血なまぐさい。お隣・中国もそういう歴史を歩んでいるということを鑑みれば、「友好外交」ではまったく太刀打ちできないということがわかる。

 日本の外交官にはぜひともバルザックを読んでほしいという理由は、そこにある。

(120722 第355回 写真は、パリにあるラ・コンシェルジュリーの内部)

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