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紺碧の将

景観に映る、住む人たちの心情

2012.02.22

 また、パリの話になってしまう。

 パリとは不思議な街で、あれだけ多くの観光客が訪れるのに、それを最大限観光収入に結びつけようとはしない。旧市街地にはほとんど高層ホテルがないし、外国人向けのていねいな看板・標識の類も少ない。日本人やアメリカ人的な発想であれば、ジャンスカジャンスカ新しいホテルを作って、とにかくたくさんの客を収容しようとするだろう(あっ、ここで気づいたが、本来、日本人とアメリカ人は正反対といっていい価値観だったのに、いつの間にやら同じカテゴリーに入っている。これは極めて不名誉なことじゃないかな)。

 しかし、フランス人はそうしようとしない。頑なに風景を守る。頑固一徹、まさに一刻者! そういえば、数年前、猛暑で5000人くらい死んだ後も、旧市街にあるマンションの冷房設備は改善されなかった。どうやら、エアコンの室外機が問題らしい。クソ暑い夏に涼しくなるのは結構だが、室外機が通りからモロ見えはまずいということらしい。死んでもいいから美しい景観を守るという発想は、なかなか真似のできるものではない。日本であれば、すぐ責任問題に発展し、役人はさっそく手を打つことになる。なにしろ“街路樹の落ち葉が汚い”とクレームをつけられるのがコワイから、葉が落ちる前に枝を切り落としてしまう国だ。落葉樹であれば秋に葉が落ちるのは当たり前。落ち葉がいやなら、近所の人が落ち葉拾いをすればいい。それをせず役所にクレームをつけ、役人は役人でそういった理不尽なクレームを突っぱねることさえできない。かくして、美しかった日本の風景は、税金を使われてどんどん醜くなっている。

 

 話がずれた。

 そんなわけでパリのホテルは古い建物が多いのだが、外見とは裏腹に、室内は快適なところが多い。パークハイアットのような豪華なホテルもいいが、右上写真のような密集地にあるホテルの窓から見える風景もまた味があっていい。右上の写真はどのホテルか忘れたが(凱旋門の近くだった)、屋根裏みたいな最上階の窓から見ると、タイムスリップしたような感覚に陥った。通りに目をやれば、ヘミングウェイやフィツジェラルド、はたまたピカソやロダンやサルトルやヴォーボワールやドビュッシーがてくてく歩いていそうな雰囲気が漂っている。ありし日に思いを馳せることができる風景は、素敵だと思う。反面、時間の堆積を遮断した風景は、どんなに科学の粋を集めていようが興趣がわかない。バキバキの現代建築であれば、庭には樹齢100年以上の大木があるなどといったバランスを図るのが当然だろう。

 景観を見れば、そこに住む人の心がわかるという。ならば、大きくバランスを崩した現代日本の景観は、何を意味しているのだろうか?(※小学三年生向けの社会科のテストから)

(120222 第320回 写真は、パリのとあるホテルの部屋から見た光景)

 

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