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紺碧の将

信じる力

2012.01.04

 日本文学者のドナルド・キーン氏(89歳)は、先の東日本大震災の後、残りの生涯を日本人としておくりたいとして日本人に帰化された。多くの外国人が放射能を怖れて日本を去っていくなかで、このことは私たち日本人に大きな勇気を与えてくれた。

 キーン氏はもともと太平洋戦争当時、米軍の情報将校だった。敵である日本の行動パターンを読むには、日本の専門家が必要だ。そのため、日本に詳しい人物を集めてチームをつくっていたのだが、彼はその一員だったのである。ちなみに、当時の日本はアメリカと逆のことをやっていた。「敵国」である英語も禁止し、米英通は肩身の狭い思いをせざるをえなかったという。こういう狭量な精神性は日本人の欠陥だと思っているが、そのことはとりあえず棚に上げておいて……。

 日本が負け、多くの人材を失い、国土が焦土となったことによって、当時の情報将校は方向転換をした。なぜなら、これほどコテンパンにやっつけられた日本が復活することはないと思ったからだ。世界の中で力のない国の専門家になっても将来はない。だから、多くの同僚たちは他の国の専門家(例えば、中国)への方向転換をしたそうだ。

 しかし、キーン氏だけはちがっていた。なぜなら、日本は必ず復活すると思っていたというのだ。

 その理由は?

 以前に見た、京都や奈良の寺社や仏像、庭園などを見て、「こんなに素晴らしいものを作れる民族が滅びるはずがない」と確信していたという。そして、事実、その通りになり、日本は停滞しているとはいえ、今でも世界有数の重要な国であり続けている。

 同じように、第二次世界大戦中、ドイツに侵略され降伏したフランスに対し、ウィンストン・チャーチルは、「350種類ものチーズを食卓に並べる国が滅びるはずはない」と言ったという。もっとも、これにはもっと面白い逸話があり、ドゴール将軍は、「350種類ものチーズを産する国を治めるのは難しい」とも語っている。

 なにはともあれ、あるモノを介して民族の力を見ることはできるということだ。

 

 昨年来のユーロ危機が飛び火して、イタリアが危ない。国債の利率は年7%前後をウロウロしている。まさしく危険水域だ。あの楽天的な国民がそのような数字を見て、行動を変えるかどうかはなはだ怪しいが、最終的にはキーン氏やチャーチルの理論を信じたい。

(120104 第308回 写真はイタリア・ミラノのドゥオモ)

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